*Novel's map*

◎・・・・連載
*・・・・成人向け(タイトル横)R18以上はPASS制


Close to you #2

【高×土】

彼は戦場にいた。

雪が積もり湿った土の冷たさに体を預けて、限りなく降り続く淀んだ空を見つめていた。


吐く息はとても白く、

空気を切り裂き、

頭の片隅でキンと刺さる痛みを感じて、目を細める。


凍る大地―――。

体の芯から生きた熱をも奪い去って逝くような・・・、そんな寂れた地に、土方は立っていた。


ただ、その白い息だけが、自分の存在を感じ取れるような気がした。



遠くの方では微かに聞える刀のぶつかり合う音・・・、

に続く金切り声や、叫び、大砲の打ち込まれる音などが響き渡っていた。


荒れた大地で1人、

寒空を見上げその音を聞き入る。


数分前の自分は、あの場所にいた。


赤く濡れた地を踏み、赤く濡れる刀で敵を斬った。


どっ、と噴き出す液体で顔は汚れ、次から次へと鳴り止まない爆撃をうまくかわして、

・・・味方は無事か?

そんな心の余裕すらなくして、ただ目前の敵を斬りまくる。


傷ついた身体で最後の一振りをして、敵が倒れた後、そのままバタリと倒れこんだ。

ドッドッドッと心の蔵が脈打つのが聞えている。


彼は静かに目を閉じた。

1つの想いに、身を投じるために。




***



「もう行かなきゃならねぇ・・・・」


そう呟いた土方はそのまま静かに目を閉じる。


高杉はそれを静かに聞いていた。

その時、もし何か応えてくれればいいが、といった想いはあったが、

自分の声が聞えているのか聞えないフリをしているのか、待ってみてもその返答はなかった。

聞こえたのは、煙を吐いたその音だけだ。



「もし・・・、」と言いかけて、やめた。

――いや、いい・・・。


その代わり土方は高杉を抱き締めた。


最初に声を掛けたのは、高杉のほうだった。

あのときは、自分がとても小さな者に見え、躯に走る旋律に耐えられず

赤子のように泣くのか、とあの男に嘲笑われた。



あいつの嗤った顔を今でも覚えている。同時に犯された羞恥も。

躯を奪われた事実、消えはしない痕。


なのにその後、幾度も逢うこととなり、抱かれ続けた。

もう何度目か数えるのも馬鹿馬鹿しくなってしまって、きっと自分はその感覚に麻痺したのだと思った。

思うと、あいつの顔が、嘲笑う顔が浮かぶ。

浮かんでは疼き、逢えば疼く。

気付けば高杉なしではいられなくなっているのだと気付いてしまった。




「欲しいか」


静かにそう呟いたあの目を忘れることができない。

いつもそうやって捉えて離さなかった。顔をあげるとどうなるのか、その答えはもう知っている。

知っているけれど、その先自分がどうなるのかわかっているというのに

いつでも意思とは反対の行動に出てしまう


土方が魅せた最期の夜、彼の胸の内に隠しているであろうその色に、もう迷いはなかった。

とても澄んだ蒼色――、・・・・けれど、高杉はそれに気付かないフリをした。


(――この関係も終わりか・・・。)



ゆっくりと、目を開ければそこは望まない空が見えている。

切望にも満たないどす黒い空が――・・・。

自分が此処にいる意味、存在、理由。
全てを現実に戻して、土方はようやく意識をはっきりさせた。



しんしんと降り積もる雪が辺り一面を白く染めあげた大地

冷えた体には何もかもが耐え難い。

こうしてここもいづれ赤く染められてゆくのだろう。

それは自分なのか、それとも・・・。



高杉に、最後は、聞けなかった。

この関係が続くことをどう思っていたのかを。


望まれてなくてもいい。ただの過ちであればいい。だとしても、

ただ、その一瞬だけでもいい。

高杉も自分と同じ想いをしていて欲しいのだ、と。


思い出さなくてもいいから、忘れてしまってくれていい。

あんなのは所詮戯言だったと吐き捨ててくれればいい。



言葉に表す必要はない。

想いなんて――、何度も抱かれたこの体だけで充分だ。

例え其れが体だけの関係だったとしても。

――そして、

同じ頃、あの男も戦場にいた。

最期の晩に、同じ戦に行くのだ、とは告げなかった。


告げても同じ事だ。

奴とは、どう足掻いても敵であり味方でもない。

そもそもそんなことは承知の上だ。



この戦いの黒幕が誰なのかアイツは、知っているだろうか。


知らないわけがないだろう、奴は幕府の狗なのだから

既に調べはついているはずだ



知っていたから近づいたのか。


知っていたから身を委ねたのか。


知っていたから、、、あの晩、別れの言葉を告げに来たのだろうか・・・。





・・・奴の目にどう映っていたのだろう。

あの晩抱いた土方の顔がよぎって、

自分の思いを打ち消すかのように高杉は嘲笑した。




遥か彼方に聞えていた爆撃の音は、今はもう、とても近くに響いていた。

凍る大地を揺らぐほどの衝撃が地に轟く。

これが全ての始まり。


計画は既に、実行された。


戦場で、殺り合うことにはもう慣れている。


もう、思い残すことなどない。




最期の戦には、華も必要だろう。

地を赤く染めるのは、さて――どちらになるか。




高杉は、目前を見据え、静かに刀を抜いた。



刃を向けるその先は、・・・・・――――。


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