*Novel's map*
◎・・・・連載
*・・・・成人向け(タイトル横)R18以上はPASS制
*・・・・成人向け(タイトル横)R18以上はPASS制
・白銀の空
【高×銀】
*途中、土⇒銀になります。相思相愛。リーマン現パロ。
話が途中からややこしくなります。
・現代は、リーマン設定
・昔は、銀魂の公式設定
話の中で1000年後とかいうとてもベタやでっ!!的な表記がありますが
完璧にテキトー設定です。意味はあるけど特に気にするほどの理由もないので
気になさらずお読み下さい。
↓
鞄を片手に鏡の前でスーツを整え、ひと呼吸し外へと出る。
風がひんやりと顔を撫でその冷たさに少々身を縮めた。
まだ早春とはほど遠い2月の半ば。コートとマフラーに身を包み、鍵を閉める。
振り返って視線を下ろすとマンションの階段下に
待っているその顔をみて、高杉は気恥ずかしさが交じった顔をみせた。
そのまだ慣れていない照れる気持ちを冷えた手ごとコートのポケットにつっこみ、マフラーに顔を埋める。
そんな高杉の様子を不思議そうな顔で覗き込んでいる。
自分が見られているのだと意識する。
その視線も気になってつい余計に顔を深く俯かせてしまう。
そんなに寒いのか?大丈夫?とか・・・言ってくる。
きっと俺が寒さのために縮こまっているのだと思っているのだろう。
自分でもなんでこんなに朝からハラハラする気持ちになっているのかと、
最初の内はよくわからなかった。
お互い同じマンションに住んでいる、
ただそれだけの事で毎朝通勤を共にするようになった。
一緒に見てわかったこと。・・・隣に居て、思うこと。
蒼く澄み渡る空はよりいっそう彼の銀の髪が映える。
毎回、はねっかえりのクセを見るたびに思っていた。
入社して3年。
顔向かいに座ったのは高校の時同じクラスの坂田だった。
「・・・こういうことってあるんだな。」
顔を見て一番初めにやつが言った言葉がソレだ。
嬉しかったような気持ちと、ただそれだけの言葉なのかと思いのほか簡単に返されて、
思い返すと虚しくなる気持ちがあったのを覚えている。
そして無性になぜか今でもそこの記憶だけは残っていてふとした時に思い出すことがある。
あの頃は今よりも何も知らなかった。
それはあの空のような蒼に近い。空を見上げたとき1点の雲もない碧天。
畏れる心は何もない。ただバカみたいに前向きでなにも恐くない、感情。
・・・今は。特にその場面だけが悪夢の様に何度も自分に還ってくる。
あの時感じた嬉しさはいったいどこにいってしまったんだろう。
(どこに・・・消えたんだろう?)
何度も、何度も同じ場面を思い出す度に黒い何かが隙間に入り込んで自分に悪夢を見せつけた。
記憶は何度もふりだしに、スタート地点に強制的に戻させられていく。
坂田と再会した最初の記憶を今でもバカみたいに捨てられずに大事そうに抱えていた。
それが後々仇になることなんて夢にも思わないからちょっとその時は有頂天にもなっていた。
自分があいつを好きになっていた学生時代を思い返して。。
・・・今更、悩んだところで遅いと自らを叱咤したところでどうにもならないこと。
隙間に入り込んだ悪夢は容易い夢ではなかった、ということ。
一旦歪んでしまった溝は深く、日々を抉る。
だから「戻りたい」なんて願っても戻ることなんて許されるはずがなかった。
・・・それは本心ではない。
自分のしたいこと、やりたいことに対する境界線を強制的に引かれてしまうようで、
ただそれが悲しくて深く辛辣になっていくものだった。
そして時折、こんな悪夢も見た。
頭がどうにかしてしまったかのように突然と光に包まれる。
フラッシュバックだ、と医者は言った。
現状に何か支障をきたす出来事はなかったか、と。
そのとき何かを答えたのかは覚えていない。
最後に医者はこういった。
あまりに何かを求める心がそれらを生み出す原因なのではないか、
執拗に追い求める精神がそれらフラッシュバックの原因なのではないか、と。
そして、思っていたこと以上の悪夢をみてしまったのだ。。。
それは月末の、忙しない時期にさしかかっていた頃だ。
「人がいなくて困っているそうだ。君、この書類を届けながらちょっと手伝ってきてくれ」
確かに今日はいつもより人が少ないと思っていたが、見渡せば皆席を外していた。
いつもさぼっているように見える坂田の姿も探すがその場には課長と自分以外いない。
まったくどこいきやがった・・・と思いながら渋々承諾する。
「すまん。これ至急頼む」と言われた書類を手に、「はい」と返事をして席を立ち、
隣部署のオフィスに向かっていたとき小声での会話が聞こえてきた。
こんな忙しいときになにをサボってる奴がいるのか、と思ったとき坂田の顔が浮かんだ。
まさか、と思ったが目でそれを受け止めたとき衝撃は意外大きかった。
坂田の前には・・・。
・・・誰だあの男は。
黒髪の、切れ目。
坂田の顔に手をそえ、坂田もそれにされるがままに接吻・・・されていた。
「ッ・・・・!!」
あいつ・・・!!
手に持つ書類が握力で歪むのを抑えられなかった。
胸に火が付いたように熱くそのあとも衝動が抑えられなかった。
隣部署に行って書類を渡して自分の席に戻ってきた後もかろうじての記憶しかない。
席に戻ってからもしばらく呆然とし、回っていた全ての時がとまってしまったかのように感じて
周りの空気もとても冷たく重かった。
全身の血が引いてしばらく頭がぼーっとしていた。
しばらくそうしていると視界にふと銀色の・・・はねっかえりの・・・。
それをぼんやりと見つめた。
「おい、おーい」
呼んでいる声が遠くに聞こえる。
「ん・・・・」
「おいなんだよさっきから・・・返事しろよ!」
「あ・・・ああ悪ィ」
はっきりとしてきた視界に、目の前にはスーツを着て片手には鞄を持っている坂田がいる。
その上空、視界には・・・・澄み渡った空が拡がっていた。
(あれ・・・・俺は)
「おい、最近お前大丈夫なの?なんか体調悪いなら休んだほうがいいんじゃね?」
心配そうな坂田の顔が今の状況を把握させた。
・・・ああ、またなのだろうか。
きっとこれも一種のフラッシュバックとやらに違いない。
たまに、いや・・・あのことがあったときからだ。・・・多分。
なんの罪も感じていない目の前の男の笑みと同じように、
何度も見ている澄み切る蒼の深さが赦しがたくて。
それでもそんなになってもまだ愛したいと思っている。
今の自分はとても弱い。
そのものたちを嫌いになることはできなかった。
そんな葛藤はしばらく続いた。
気持ちを落ち着けようと何度心を整理しようとしてきたか。
・・・結果は同じだった。
溜息なんかはとうに出きってしまって虚しさが残るだけだ。
浅い靄のように心の底に膜を張る。もやもやとした感情がとても息苦しい。
他人の相談事に付き合っても本人のそれを表現するには簡単な言葉は見つからない。
自分にだってつい先ほどまでわからなかった。それが今自分を戒めている。
辛いと言いながら裏では悲壮な顔をする。
親身に聞いていたとしても所詮は他人。それは決して本人にしかわからぬことで
例え同じような立場であっても経験があっても、本人にしか気持ちを表せない。
悩み妬み嫉妬する前に解決しようともした。
積み重ね抱いた感情を坂田に告げようと何度も試みようともした。
なのに、この気持ちを隠そうとしている自分がいた。
目の前の男が誰で、なんという名前なのか。それを聞いたところで何も・・・。
いや、・・・俺は知っていた?
自分の結末を、こうなる不幸を・・・。
・・・いや違う。最近例のフラッシュバックで寝不足なんだろう。
きっと俺は今疲れているんだ。自分でも知らぬまに。
これだけ悩みを抱えているのに、心身ともに健康であるはずがない。
ただそれに気に掛ける余裕がなかっただけだろう。
そうしてその日は早めに帰宅して就寝した。
そして夢を見た。
夢の中で高杉はある男と対峙していた。
視線の先には研がれて銀と光る刃を向けられている。その剣先は自分へ、と。
・・・なぜ、俺に。
誰が・・・?
それを手に持つのは、あの坂田だった。
その目は迷うことなくしっかりと正面の自分へと向けられている。
なぜ、?
そう思う半面、その感じはなぜかひどく懐かしく、肌寒いその空気も知っていた。
この現状と危機感。張り詰めた空気、時の流れ・・・そしてこの向けられた刃先の意味も。
誰に教えられたものではなかった。
高杉は、知っていた。
乾いた地。2人の間に流れる刻。自分の体に巡る血が騒いでいる。胸が躍る。
熱くなるこの胸も、作られたものではないことを。
隣部署の男が坂田に接吻をしたことを目撃してしまった日。
あれ以来坂田を避けるように意識してそのあとも顔を見ない日が続いた。
毎朝の出勤もなく、いつもの気恥ずかしさも顔を背けることもなくなって
ただ寒空が進んでいくその蒼さも気にならなくなった。
銀のはねっかえりを気にする癖も。
それでも今、自分に刃先を向ける坂田には「久しぶり」という懐かしさはなかった。
昔から知っている。というひどく生暖かい記憶。
そこには、なにかの執拗な念のようなものがあるのだということが高杉の知識に流れ込んでくる。
(坂田・・・。いやそうではない。俺が呼ぶその名は・・・)
そう自分の中で違和感があった。けれど告げるその口は、その時を生きている者の口だった。
「よぅ、銀時ィ」
(銀、時・・・・)
自分であり、自分ではないその者が喋っている感覚だった。
まるで魂だけが自分の体に入っているようなかんじでもあり妙にこそばゆさを感じた。
この目に映っているものは・・・過去・或いは生前・・・なのだろうか?
時代に生きていた者が自分の口を借りて喋っている感覚だった。
(なんなんだ、これは・・・銀時、だって?)
俺は、坂田としか呼んだことがない。でも俺は・・・・「銀時」と呼ぶことも知っている・・・?
「ぎん・・・とき・・・?」
坂田のことを銀時だと呼んだ時、高杉は突然頭が冴えたかのようにその過去を思い出した。
・・・・そうだ、コイツの言う「銀時」だ。俺は確かいつも、そう呼んでいたのだ。と。
そして、熱く流れ込む感情があったことも。滾らせた血の熱さと一緒に。
・・・・坂田が憎いのだ、と。
自分でありながら自分ではない感情が黒く雪崩れ込んでくる。
どれだけ昔の、どの時代なのかはわからない。
自分でありながら自分ではない者・それがもし過去の自分だったとして、
口から発した「銀時」と呼んだ。呼ばれたその者は、
・・・こちらの出方を待っているようにみえた。
その張り詰めた空気間は、こちらにも緊張感として伝わってくる。
けれど、こんなに緊迫の漂う中で、自分は・・・高杉は、余裕の心が僅かながらにあった。
(なんでこんな状況で・・・。この男は。。)
と高杉は思う中で、過去の自分はどうやら、、その皮肉にも笑っていた。
今の自分なら、なんの因縁があったかはわからなければ刀を向けられている理由もわからないというのに・・・
こんなこと尋常じゃない、と思う。
けれど、そうは思っていても、踏みしめる地、空、呼吸から伝わる緊張、滾る血、
激しい感情など、なにもかもが初めてとは思えない。
・・・こうして、あいつとは長年、対立してきたことも。
両者共に着ているものは現代のものではない。
学生時代の歴史の教科書に出てきたもの。
1000年前のその当時、着物と呼ばれていたもの。
自分の右手に持っているものとは、その時代愛用していた煙管であるらしい。
口に結えて白い息を吐き出していた記憶が高杉の頭の中に浮上した。
さっきまでは慣れなかったが、どうやら高杉が見た物を、
その時代の自分が、どうやって使用していたのか映像とともに頭の中で見ることができるようだ。
それはちょっと便利だったが、とても慣れない、という変な違和感はあった。
2人は互いにじっとお互いを見つめたままだった。
高杉は思った。
この対決はいつまで続くのだろうか。いつまで、続いていたのだろうか、と。
始まりがなにであって・・・その終わりがあったのだろうか?
この時代の自分になって、毎晩対峙する夢は続いた。
毎夜眠るたびに何度も見た。
決まってその時代の坂田への感情が自分に入り込んでくる。
高杉の過去・或いは生前の自分と対峙している。その相手がうり2つの顔を持つ『坂田』という男で、高杉は今、彼をより深い感情で想っている、というのにこの時代の自分はこうして何年にもかけて因縁として対立しているのだ。・・・なんとも、皮肉だとしかいいようがない。
そんな過去の自分の滾る熱さが、今の自分の中に入り込んでくる。遮ろうとしても拒んでも勝手に身体を巡る血の様に流れてくる。
そしてこの黒い感情が今、現代で生きる自分には別の感情となっているのだ。
なぜか自分のことなのに恐ろしく思えてしまう。いつか凶器とも思える自分の感情が、知られてしまう恐さだった。
夢を見るようになって1週間、高杉は坂田と会っていなかった。
仕事で会うことも、向かい合わせになることもなかった。
実際のところ後ろめたさという感情が生えて、高杉自身があの夢の畏れ、隣部署での出来事などにより、今の自分の気持ちを隠す度にやってきたことが今度は本当に会えなくなってしまっていたのだった。
意識しているとそういう流れみたいなものが出来て自然と会えなくなってしまうものだ。
それを望んでいたのか、と問われると実際、そうではなかった。
ただそうなれば楽なのに。。と思ってしまっただけなのに、そうなるかもしれない、と頭を意識させた結果、今までの流れを変えてしまうこともあるのだ。
ほんとうにもう会えない気がしていた。
すれ違いだとしても、同じマンションなのだから、それにいつも2人で会社に行っていたという事実もある。
ほんとうにそれは、ピタ、と止まってしまったように思えた。
だとしたなら、
その流れであの時代2人が対立していたことも上手く消えてなくなればいい、とも思った。
そういえば・・・、あの隣部署にいた男。
坂田に接吻していた相手の男ともそれきり会ってはいない。
なんだかこちらは時間が進んでいないように思えるのに、周りの時間がやたらに早いのか、或いは遅いか。独り置き去りにされたように気分になる。
そう考えながら高杉は無意識に向かいの席を確認した。
そこに、姿はない。
辺りを見回して姿を捉えようとその姿を必死に探す。
しかし見る者、見えるもの、そこに坂田の姿はなかった。
そんなとき、よく通る声がオフィス内に響いた。
「高杉ー!ちょっとこっち来てー」
・・・・坂田の声だ!
ドアによりかかって手招きしている。
「いやァ、ちょっと野暮用でさァ・・・」
「どうした?」とドアの側まで近寄ると少しだけ忘れていた気恥ずかしさが戻る。
久しぶり・・・だった。顔を合わせて話すことすらも。
けれど、それ以上な展開が続いた。
顔を急に近づけられたので少し、奥の方がざわついた。
それも気付かれないよう平然さを装う。
だが自分の顔は熱くなっているのがわかった。髪で隠れた耳が熱くなっているのが自分でもわかった。さすがにそこはバレたら恥ずかしい。
(・・・俺は、女かよ)と胸内にてひとりごちながら、
少し目線を上に向けると、なぜか坂田の耳も赤くなっていることに気付いた。
――お、おい。お前耳赤いけどどうし・・・
と言おうとして、自分以上に顔を反らし目も反らしている。
そんな彼の仕草にこの瞬間で、自分の想いを打ち明けられたら、、、と余計な気が溢れた。
そのとき、高杉はただ怖いくらい無意識で、彼を呼んでいた。
スッと口をついて出た、その名前を。昔、自分がそう呼んでいた二文字を。
「・・・銀時」
昔は憎しみ。今は、愛しさからその名を呼ぶ。そのまま受け止めた坂田は最初は唖然としていた。
そして、、緊張が崩れるように笑みへと変わった。
「ずっと・・・そう呼んで欲しかったんだ。やっと呼んでくれたのか、ありがとな」
意外な言葉だった。
ずっと恐れを抱いてきた言葉が返ってくるかと思っていた。
今までは交わす言葉に勝手な恐れを抱き、会わせる顔もなくて、
そんな自分を思えばなにを思い違ってしまっていたかと恥ずかしくなった。
「でも、・・・この名前呼ぶの初めてなのに」
「ああ、そうだよ。今のお前はな。けどひと昔前の『高杉』は違ったろ?」
「・・・・・!」
「ああ、思い出したんだよ。お前が俺を呼ぶ声が強くて、毎晩のように呼んでたろ?
『銀時』・・・って」
「・・・・そうか。昔のお前は、無口だったな。まあ今も変わってねーかな。でもそれは色々あったから」
「おまえだって、あんな目はしてない」
「ああ、そうだよな。刀も持ってねーし、だいたい万事屋なんてしてねーもん」
「ああ。俺も鬼兵隊は組んでいない。けど・・・・」
そう言ってふいと廊下の向こう、目に入ったのは―――、・・・昔の仲間だった。
隣の部署に目をやると、机を囲んでいる者達は廊下で話す2人を見て
「すいませーん!」と声をかけてきた。
それが1000年前の古き仲間だ。
当の本人達はきっと知らないのだろう。
木島は相変わらず「晋助先輩!」と呼んで、昔高杉の右腕であった河上は、会社の忘年会のとき出し物としてギターを披露していた記憶がある。
会議の時、死んだサカナのような目で正論を諭す武市と度の強い眼鏡をかけてクセのある声音で話す岡田。
「あと・・・・土方も、だ」
すいませんー、と呼びかけられた声に向かおうとしていたときに
苦虫を潰すような声で言われてはっ、となる。
坂田から直に言いにくいであろうその名を言われて驚きを隠せなかった。
「ごめん、俺・・・許しちまって」
そのあと悔やんでも悔やみきれず、ずっと言えなかったという坂田をみて、
自分がしてきたことがいかに馬鹿だったのかを理解した。
同じ思いがあったのに、それを言葉として表に出せなかった・・・と坂田は悔やんだように言った。
「高杉のことはわかってた。俺を・・・避けていると思ったんだ。何から避けてるのかわかった時、そんな思いにした自分が情けなくなったよ」
・・・それは、俺も同じだ。銀時。
本当は謝らねばならないのはこっちのほうだった、と話すと
ゆっくり頷いてもう一度すまなかった。と謝られた。
急に開けた大きな流れ。それはとてつもなく大きな河のようだとも思う。
流れて流されて勿論留まることなんて出来ない。
そんな大きな感情が大海原へと運ばれていくのだ。
どうして人は解っているのに、事が大きくなっていくのだとわかっていながらも
大きな流れの渦に自らを投下していくのだろう。
やがて大きな滝に落ち、川の底に潜る。
どうやら自分は、気泡が立ち上るその光景をずっと底から見ていたような気がする。
或いは、海の奥深く光が届かぬ底から手が差し伸べられるのをずっと待っていた。
その長い年月、ただ羨みながらもなにもせず時を呪った。
記憶と思いが交差してどちらが現実か麻痺してしまうと多分・・・。
もう元の場所へは戻れなかったに違いない。
何度も迷いが左右した。・・・でも、諦めなくて良かった。
マンションの階段下で待っていたいつもの笑みで迎えてくれる坂田に、
もう一度会いたかった。
何も知らず高杉が独り想っていた頃はすれ違いから坂田の方も同じことを想っていた。
朝が来ていつもの高杉の照れを隠すその顔に思わず、に、と笑って返せば、高杉もつられて笑った。
話が途中からややこしくなります。
・現代は、リーマン設定
・昔は、銀魂の公式設定
話の中で1000年後とかいうとてもベタやでっ!!的な表記がありますが
完璧にテキトー設定です。意味はあるけど特に気にするほどの理由もないので
気になさらずお読み下さい。
↓
鞄を片手に鏡の前でスーツを整え、ひと呼吸し外へと出る。
風がひんやりと顔を撫でその冷たさに少々身を縮めた。
まだ早春とはほど遠い2月の半ば。コートとマフラーに身を包み、鍵を閉める。
振り返って視線を下ろすとマンションの階段下に
待っているその顔をみて、高杉は気恥ずかしさが交じった顔をみせた。
そのまだ慣れていない照れる気持ちを冷えた手ごとコートのポケットにつっこみ、マフラーに顔を埋める。
そんな高杉の様子を不思議そうな顔で覗き込んでいる。
自分が見られているのだと意識する。
その視線も気になってつい余計に顔を深く俯かせてしまう。
そんなに寒いのか?大丈夫?とか・・・言ってくる。
きっと俺が寒さのために縮こまっているのだと思っているのだろう。
自分でもなんでこんなに朝からハラハラする気持ちになっているのかと、
最初の内はよくわからなかった。
お互い同じマンションに住んでいる、
ただそれだけの事で毎朝通勤を共にするようになった。
一緒に見てわかったこと。・・・隣に居て、思うこと。
蒼く澄み渡る空はよりいっそう彼の銀の髪が映える。
毎回、はねっかえりのクセを見るたびに思っていた。
入社して3年。
顔向かいに座ったのは高校の時同じクラスの坂田だった。
「・・・こういうことってあるんだな。」
顔を見て一番初めにやつが言った言葉がソレだ。
嬉しかったような気持ちと、ただそれだけの言葉なのかと思いのほか簡単に返されて、
思い返すと虚しくなる気持ちがあったのを覚えている。
そして無性になぜか今でもそこの記憶だけは残っていてふとした時に思い出すことがある。
あの頃は今よりも何も知らなかった。
それはあの空のような蒼に近い。空を見上げたとき1点の雲もない碧天。
畏れる心は何もない。ただバカみたいに前向きでなにも恐くない、感情。
・・・今は。特にその場面だけが悪夢の様に何度も自分に還ってくる。
あの時感じた嬉しさはいったいどこにいってしまったんだろう。
(どこに・・・消えたんだろう?)
何度も、何度も同じ場面を思い出す度に黒い何かが隙間に入り込んで自分に悪夢を見せつけた。
記憶は何度もふりだしに、スタート地点に強制的に戻させられていく。
坂田と再会した最初の記憶を今でもバカみたいに捨てられずに大事そうに抱えていた。
それが後々仇になることなんて夢にも思わないからちょっとその時は有頂天にもなっていた。
自分があいつを好きになっていた学生時代を思い返して。。
・・・今更、悩んだところで遅いと自らを叱咤したところでどうにもならないこと。
隙間に入り込んだ悪夢は容易い夢ではなかった、ということ。
一旦歪んでしまった溝は深く、日々を抉る。
だから「戻りたい」なんて願っても戻ることなんて許されるはずがなかった。
・・・それは本心ではない。
自分のしたいこと、やりたいことに対する境界線を強制的に引かれてしまうようで、
ただそれが悲しくて深く辛辣になっていくものだった。
そして時折、こんな悪夢も見た。
頭がどうにかしてしまったかのように突然と光に包まれる。
フラッシュバックだ、と医者は言った。
現状に何か支障をきたす出来事はなかったか、と。
そのとき何かを答えたのかは覚えていない。
最後に医者はこういった。
あまりに何かを求める心がそれらを生み出す原因なのではないか、
執拗に追い求める精神がそれらフラッシュバックの原因なのではないか、と。
そして、思っていたこと以上の悪夢をみてしまったのだ。。。
それは月末の、忙しない時期にさしかかっていた頃だ。
「人がいなくて困っているそうだ。君、この書類を届けながらちょっと手伝ってきてくれ」
確かに今日はいつもより人が少ないと思っていたが、見渡せば皆席を外していた。
いつもさぼっているように見える坂田の姿も探すがその場には課長と自分以外いない。
まったくどこいきやがった・・・と思いながら渋々承諾する。
「すまん。これ至急頼む」と言われた書類を手に、「はい」と返事をして席を立ち、
隣部署のオフィスに向かっていたとき小声での会話が聞こえてきた。
こんな忙しいときになにをサボってる奴がいるのか、と思ったとき坂田の顔が浮かんだ。
まさか、と思ったが目でそれを受け止めたとき衝撃は意外大きかった。
坂田の前には・・・。
・・・誰だあの男は。
黒髪の、切れ目。
坂田の顔に手をそえ、坂田もそれにされるがままに接吻・・・されていた。
「ッ・・・・!!」
あいつ・・・!!
手に持つ書類が握力で歪むのを抑えられなかった。
胸に火が付いたように熱くそのあとも衝動が抑えられなかった。
隣部署に行って書類を渡して自分の席に戻ってきた後もかろうじての記憶しかない。
席に戻ってからもしばらく呆然とし、回っていた全ての時がとまってしまったかのように感じて
周りの空気もとても冷たく重かった。
全身の血が引いてしばらく頭がぼーっとしていた。
しばらくそうしていると視界にふと銀色の・・・はねっかえりの・・・。
それをぼんやりと見つめた。
「おい、おーい」
呼んでいる声が遠くに聞こえる。
「ん・・・・」
「おいなんだよさっきから・・・返事しろよ!」
「あ・・・ああ悪ィ」
はっきりとしてきた視界に、目の前にはスーツを着て片手には鞄を持っている坂田がいる。
その上空、視界には・・・・澄み渡った空が拡がっていた。
(あれ・・・・俺は)
「おい、最近お前大丈夫なの?なんか体調悪いなら休んだほうがいいんじゃね?」
心配そうな坂田の顔が今の状況を把握させた。
・・・ああ、またなのだろうか。
きっとこれも一種のフラッシュバックとやらに違いない。
たまに、いや・・・あのことがあったときからだ。・・・多分。
なんの罪も感じていない目の前の男の笑みと同じように、
何度も見ている澄み切る蒼の深さが赦しがたくて。
それでもそんなになってもまだ愛したいと思っている。
今の自分はとても弱い。
そのものたちを嫌いになることはできなかった。
そんな葛藤はしばらく続いた。
気持ちを落ち着けようと何度心を整理しようとしてきたか。
・・・結果は同じだった。
溜息なんかはとうに出きってしまって虚しさが残るだけだ。
浅い靄のように心の底に膜を張る。もやもやとした感情がとても息苦しい。
他人の相談事に付き合っても本人のそれを表現するには簡単な言葉は見つからない。
自分にだってつい先ほどまでわからなかった。それが今自分を戒めている。
辛いと言いながら裏では悲壮な顔をする。
親身に聞いていたとしても所詮は他人。それは決して本人にしかわからぬことで
例え同じような立場であっても経験があっても、本人にしか気持ちを表せない。
悩み妬み嫉妬する前に解決しようともした。
積み重ね抱いた感情を坂田に告げようと何度も試みようともした。
なのに、この気持ちを隠そうとしている自分がいた。
目の前の男が誰で、なんという名前なのか。それを聞いたところで何も・・・。
いや、・・・俺は知っていた?
自分の結末を、こうなる不幸を・・・。
・・・いや違う。最近例のフラッシュバックで寝不足なんだろう。
きっと俺は今疲れているんだ。自分でも知らぬまに。
これだけ悩みを抱えているのに、心身ともに健康であるはずがない。
ただそれに気に掛ける余裕がなかっただけだろう。
そうしてその日は早めに帰宅して就寝した。
そして夢を見た。
夢の中で高杉はある男と対峙していた。
視線の先には研がれて銀と光る刃を向けられている。その剣先は自分へ、と。
・・・なぜ、俺に。
誰が・・・?
それを手に持つのは、あの坂田だった。
その目は迷うことなくしっかりと正面の自分へと向けられている。
なぜ、?
そう思う半面、その感じはなぜかひどく懐かしく、肌寒いその空気も知っていた。
この現状と危機感。張り詰めた空気、時の流れ・・・そしてこの向けられた刃先の意味も。
誰に教えられたものではなかった。
高杉は、知っていた。
乾いた地。2人の間に流れる刻。自分の体に巡る血が騒いでいる。胸が躍る。
熱くなるこの胸も、作られたものではないことを。
隣部署の男が坂田に接吻をしたことを目撃してしまった日。
あれ以来坂田を避けるように意識してそのあとも顔を見ない日が続いた。
毎朝の出勤もなく、いつもの気恥ずかしさも顔を背けることもなくなって
ただ寒空が進んでいくその蒼さも気にならなくなった。
銀のはねっかえりを気にする癖も。
それでも今、自分に刃先を向ける坂田には「久しぶり」という懐かしさはなかった。
昔から知っている。というひどく生暖かい記憶。
そこには、なにかの執拗な念のようなものがあるのだということが高杉の知識に流れ込んでくる。
(坂田・・・。いやそうではない。俺が呼ぶその名は・・・)
そう自分の中で違和感があった。けれど告げるその口は、その時を生きている者の口だった。
「よぅ、銀時ィ」
(銀、時・・・・)
自分であり、自分ではないその者が喋っている感覚だった。
まるで魂だけが自分の体に入っているようなかんじでもあり妙にこそばゆさを感じた。
この目に映っているものは・・・過去・或いは生前・・・なのだろうか?
時代に生きていた者が自分の口を借りて喋っている感覚だった。
(なんなんだ、これは・・・銀時、だって?)
俺は、坂田としか呼んだことがない。でも俺は・・・・「銀時」と呼ぶことも知っている・・・?
「ぎん・・・とき・・・?」
坂田のことを銀時だと呼んだ時、高杉は突然頭が冴えたかのようにその過去を思い出した。
・・・・そうだ、コイツの言う「銀時」だ。俺は確かいつも、そう呼んでいたのだ。と。
そして、熱く流れ込む感情があったことも。滾らせた血の熱さと一緒に。
・・・・坂田が憎いのだ、と。
自分でありながら自分ではない感情が黒く雪崩れ込んでくる。
どれだけ昔の、どの時代なのかはわからない。
自分でありながら自分ではない者・それがもし過去の自分だったとして、
口から発した「銀時」と呼んだ。呼ばれたその者は、
・・・こちらの出方を待っているようにみえた。
その張り詰めた空気間は、こちらにも緊張感として伝わってくる。
けれど、こんなに緊迫の漂う中で、自分は・・・高杉は、余裕の心が僅かながらにあった。
(なんでこんな状況で・・・。この男は。。)
と高杉は思う中で、過去の自分はどうやら、、その皮肉にも笑っていた。
今の自分なら、なんの因縁があったかはわからなければ刀を向けられている理由もわからないというのに・・・
こんなこと尋常じゃない、と思う。
けれど、そうは思っていても、踏みしめる地、空、呼吸から伝わる緊張、滾る血、
激しい感情など、なにもかもが初めてとは思えない。
・・・こうして、あいつとは長年、対立してきたことも。
両者共に着ているものは現代のものではない。
学生時代の歴史の教科書に出てきたもの。
1000年前のその当時、着物と呼ばれていたもの。
自分の右手に持っているものとは、その時代愛用していた煙管であるらしい。
口に結えて白い息を吐き出していた記憶が高杉の頭の中に浮上した。
さっきまでは慣れなかったが、どうやら高杉が見た物を、
その時代の自分が、どうやって使用していたのか映像とともに頭の中で見ることができるようだ。
それはちょっと便利だったが、とても慣れない、という変な違和感はあった。
2人は互いにじっとお互いを見つめたままだった。
高杉は思った。
この対決はいつまで続くのだろうか。いつまで、続いていたのだろうか、と。
始まりがなにであって・・・その終わりがあったのだろうか?
この時代の自分になって、毎晩対峙する夢は続いた。
毎夜眠るたびに何度も見た。
決まってその時代の坂田への感情が自分に入り込んでくる。
高杉の過去・或いは生前の自分と対峙している。その相手がうり2つの顔を持つ『坂田』という男で、高杉は今、彼をより深い感情で想っている、というのにこの時代の自分はこうして何年にもかけて因縁として対立しているのだ。・・・なんとも、皮肉だとしかいいようがない。
そんな過去の自分の滾る熱さが、今の自分の中に入り込んでくる。遮ろうとしても拒んでも勝手に身体を巡る血の様に流れてくる。
そしてこの黒い感情が今、現代で生きる自分には別の感情となっているのだ。
なぜか自分のことなのに恐ろしく思えてしまう。いつか凶器とも思える自分の感情が、知られてしまう恐さだった。
夢を見るようになって1週間、高杉は坂田と会っていなかった。
仕事で会うことも、向かい合わせになることもなかった。
実際のところ後ろめたさという感情が生えて、高杉自身があの夢の畏れ、隣部署での出来事などにより、今の自分の気持ちを隠す度にやってきたことが今度は本当に会えなくなってしまっていたのだった。
意識しているとそういう流れみたいなものが出来て自然と会えなくなってしまうものだ。
それを望んでいたのか、と問われると実際、そうではなかった。
ただそうなれば楽なのに。。と思ってしまっただけなのに、そうなるかもしれない、と頭を意識させた結果、今までの流れを変えてしまうこともあるのだ。
ほんとうにもう会えない気がしていた。
すれ違いだとしても、同じマンションなのだから、それにいつも2人で会社に行っていたという事実もある。
ほんとうにそれは、ピタ、と止まってしまったように思えた。
だとしたなら、
その流れであの時代2人が対立していたことも上手く消えてなくなればいい、とも思った。
そういえば・・・、あの隣部署にいた男。
坂田に接吻していた相手の男ともそれきり会ってはいない。
なんだかこちらは時間が進んでいないように思えるのに、周りの時間がやたらに早いのか、或いは遅いか。独り置き去りにされたように気分になる。
そう考えながら高杉は無意識に向かいの席を確認した。
そこに、姿はない。
辺りを見回して姿を捉えようとその姿を必死に探す。
しかし見る者、見えるもの、そこに坂田の姿はなかった。
そんなとき、よく通る声がオフィス内に響いた。
「高杉ー!ちょっとこっち来てー」
・・・・坂田の声だ!
ドアによりかかって手招きしている。
「いやァ、ちょっと野暮用でさァ・・・」
「どうした?」とドアの側まで近寄ると少しだけ忘れていた気恥ずかしさが戻る。
久しぶり・・・だった。顔を合わせて話すことすらも。
けれど、それ以上な展開が続いた。
顔を急に近づけられたので少し、奥の方がざわついた。
それも気付かれないよう平然さを装う。
だが自分の顔は熱くなっているのがわかった。髪で隠れた耳が熱くなっているのが自分でもわかった。さすがにそこはバレたら恥ずかしい。
(・・・俺は、女かよ)と胸内にてひとりごちながら、
少し目線を上に向けると、なぜか坂田の耳も赤くなっていることに気付いた。
――お、おい。お前耳赤いけどどうし・・・
と言おうとして、自分以上に顔を反らし目も反らしている。
そんな彼の仕草にこの瞬間で、自分の想いを打ち明けられたら、、、と余計な気が溢れた。
そのとき、高杉はただ怖いくらい無意識で、彼を呼んでいた。
スッと口をついて出た、その名前を。昔、自分がそう呼んでいた二文字を。
「・・・銀時」
昔は憎しみ。今は、愛しさからその名を呼ぶ。そのまま受け止めた坂田は最初は唖然としていた。
そして、、緊張が崩れるように笑みへと変わった。
「ずっと・・・そう呼んで欲しかったんだ。やっと呼んでくれたのか、ありがとな」
意外な言葉だった。
ずっと恐れを抱いてきた言葉が返ってくるかと思っていた。
今までは交わす言葉に勝手な恐れを抱き、会わせる顔もなくて、
そんな自分を思えばなにを思い違ってしまっていたかと恥ずかしくなった。
「でも、・・・この名前呼ぶの初めてなのに」
「ああ、そうだよ。今のお前はな。けどひと昔前の『高杉』は違ったろ?」
「・・・・・!」
「ああ、思い出したんだよ。お前が俺を呼ぶ声が強くて、毎晩のように呼んでたろ?
『銀時』・・・って」
「・・・・そうか。昔のお前は、無口だったな。まあ今も変わってねーかな。でもそれは色々あったから」
「おまえだって、あんな目はしてない」
「ああ、そうだよな。刀も持ってねーし、だいたい万事屋なんてしてねーもん」
「ああ。俺も鬼兵隊は組んでいない。けど・・・・」
そう言ってふいと廊下の向こう、目に入ったのは―――、・・・昔の仲間だった。
隣の部署に目をやると、机を囲んでいる者達は廊下で話す2人を見て
「すいませーん!」と声をかけてきた。
それが1000年前の古き仲間だ。
当の本人達はきっと知らないのだろう。
木島は相変わらず「晋助先輩!」と呼んで、昔高杉の右腕であった河上は、会社の忘年会のとき出し物としてギターを披露していた記憶がある。
会議の時、死んだサカナのような目で正論を諭す武市と度の強い眼鏡をかけてクセのある声音で話す岡田。
「あと・・・・土方も、だ」
すいませんー、と呼びかけられた声に向かおうとしていたときに
苦虫を潰すような声で言われてはっ、となる。
坂田から直に言いにくいであろうその名を言われて驚きを隠せなかった。
「ごめん、俺・・・許しちまって」
そのあと悔やんでも悔やみきれず、ずっと言えなかったという坂田をみて、
自分がしてきたことがいかに馬鹿だったのかを理解した。
同じ思いがあったのに、それを言葉として表に出せなかった・・・と坂田は悔やんだように言った。
「高杉のことはわかってた。俺を・・・避けていると思ったんだ。何から避けてるのかわかった時、そんな思いにした自分が情けなくなったよ」
・・・それは、俺も同じだ。銀時。
本当は謝らねばならないのはこっちのほうだった、と話すと
ゆっくり頷いてもう一度すまなかった。と謝られた。
急に開けた大きな流れ。それはとてつもなく大きな河のようだとも思う。
流れて流されて勿論留まることなんて出来ない。
そんな大きな感情が大海原へと運ばれていくのだ。
どうして人は解っているのに、事が大きくなっていくのだとわかっていながらも
大きな流れの渦に自らを投下していくのだろう。
やがて大きな滝に落ち、川の底に潜る。
どうやら自分は、気泡が立ち上るその光景をずっと底から見ていたような気がする。
或いは、海の奥深く光が届かぬ底から手が差し伸べられるのをずっと待っていた。
その長い年月、ただ羨みながらもなにもせず時を呪った。
記憶と思いが交差してどちらが現実か麻痺してしまうと多分・・・。
もう元の場所へは戻れなかったに違いない。
何度も迷いが左右した。・・・でも、諦めなくて良かった。
マンションの階段下で待っていたいつもの笑みで迎えてくれる坂田に、
もう一度会いたかった。
何も知らず高杉が独り想っていた頃はすれ違いから坂田の方も同じことを想っていた。
朝が来ていつもの高杉の照れを隠すその顔に思わず、に、と笑って返せば、高杉もつられて笑った。
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